【書評】木下勝寿『売上最小化、利益最大化の法則』——月商自慢が虚しくなる本
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「月商1000万円です」と聞いて、すごいと思いますか。
僕は大阪で物販の会社を6年やっています。スタッフは30人ほど、Amazonで500種類くらいの商品を扱っています。だから、この数字を聞いたら真っ先にこう思います。
「で、手元になんぼ残ったん?」
売上は大きいのに現金が残らない。物販をやったことがある人なら、全員が通る道です。仕入代金が先に出ていって、入金は後やからです。
この本は、そこを真正面から扱っています。著者は木下勝寿さん。北の達人コーポレーションという、利益率29%のEC企業の社長です。
利益率29%が、どれだけ異常か
まずここを押さえておかんと、この本の凄みが伝わりません。
小売やECの世界で、営業利益率は数%あれば十分と言われます。上場している大手の小売でも、1桁前半がざらです。
そこで29%というのは、桁が違います。
しかもこの会社は、売上を伸ばすことを目的にしていないと公言しています。普通は逆です。上場企業ほど「増収増益」を求められます。
この本は、その常識にわざと逆らった経営の説明書です。

「売上を追わない」って、口で言うのは簡単やけど、上場企業でやり切ってるのが凄いんです
この本の骨子——売上やなく、利益から逆算する
売上を10倍にすれば、リスクも10倍になる。だから売上を追わずに、利益を最大化するという順番で考える。そのために、商品ごとの利益を5段階に分解して見る。
ポイントは「商品ごと」というところです。
会社全体の数字を見ていると、儲かってる商品が、赤字の商品を養ってる状態が見えません。全部足したら黒字やから、問題ないように見えてしまう。
5段階に割ると、1つずつの商品が、どこで利益を失ってるかが見えます。売価と原価だけやなく、広告費や販売にかかる経費まで、商品ごとに紐づけて見る形です。
僕がいちばん耳が痛かったのは「無収入寿命」
この本には「無収入寿命」という言葉が出てきます。
今日から売上がゼロになったら、この会社は何ヶ月生きられるか。それを経営の指標として持て、という話です。
売上が伸びてる時期ほど、この数字は見えなくなる
ここが怖いところです。売れてる時期ほど、現金は減ります。
売れる→在庫を増やす→仕入で現金が出る→広告費も増える。数字の上では絶好調なのに、通帳だけ見たら心細いという月が普通に起きます。
うちも在庫を積んでる月は、通帳だけ見たら赤字の会社に見えます。物販が黒字倒産しやすいと言われるのは、まさにここです。

月商自慢って、物販では一番あてにならん数字なんですよね
スタッフを抱えてると、意味が変わってくる
一人でやってるうちは、最悪しばらく無収入でも耐えられます。でも30人おったら、そうはいきません。
売上が止まっても、給料と家賃は止まらへん。この本の指標は、そこに直接効きます。
利益は、自分と家族と、スタッフの生活を守る数字や、というのがこの本を読んで一番腹に落ちたところでした。
「売上最小化」は、縮小しろという話やない
タイトルだけ見ると、事業を縮める本に見えます。誤解されやすいところです。
言うてるのは逆で、同じ利益を出すなら、小さい売上で出せるほうが強いということです。
ここだけ確認
手元に残る金額は同じです。でも中身は全然違います。
A社は1000万円分の在庫を仕入れて、1000万円分を売り切る手間がかかってます。倉庫も、人手も、広告費も、B社より大きい。
そして何かあったときの傷の深さが違います。売れ行きが2割落ちたとき、A社は一気に赤字に落ちます。B社はまだ余裕がある。
大きい売上で薄い利益を出してる会社は、見た目は立派でも、転んだら一発です。

副業のせどりでも、そのまま使えます
これは会社の本ですが、規模が小さくても考え方は同じです。
月に30万円仕入れて、35万円で売れた。「5万円儲かった」で終わらせてる人は多いと思います。
でもそこから引くものがあります。
ここだけ確認
全部引いたら、実は1万円も残ってへん、ということが普通に起きます。
この本のやり方は、それを商品ごとに1つずつ見るためのものです。赤字の商品を見つけて、やめる。それだけで手残りが増えます。
売るのをやめる、という判断が利益を生む——ここが、この本のいちばん実務的な部分やと思ってます。
赤字商品をやめた経験は、腐るほどあります
この本のいちばん実務的なところは、「やめる」判断を数字でやらせてくれるところです。
うちも赤字商品をやめた経験は、腐るほどあります。
感覚としては10商品出して、7つ残れば最高。3つ残ってもまあOKです。逆に7つアウトでも想定内やと思ってます。
「やめる」を前提に組んでおく
ここが大事なところで、やめることを例外扱いしてたら、いつまでも決断できません。
「せっかく仕入れたのに」「もう少し様子を見よう」——この状態がいちばん金を食います。在庫は置いてるだけで場所代がかかって、しかも現金が戻ってきません。
最初から「7つは外れる前提」で組んでおけば、外れたときに淡々とやめられます。
やめることが、次の基準を作る
そして外した商品は、無駄やありません。
なんで外れたかを見ると、次に選ぶときの判断基準が1段上がります。この本の5段階の分解は、そこを言葉にするための道具です。
「なんとなくあかんかった」やなくて「この段階で利益が消えてた」まで分かると、次に同じ形の商品を避けられます。

やめた数だけ、目が肥えます。やめてへん人は、基準が上がってへんだけです
正直に書くと、そのまま真似はできません
いい本ですが、読むときに注意が要ります。
北の達人は自社商品を作って、自社で売ってる会社です。だから原価も売価も自分で決められます。
うちみたいな仕入れて売る物販は、原価も売価も自分で決められません。仕入先の値段があって、相場があります。利益率29%は、構造的に無理です。
なので、数字をそのまま目標にしたらしんどいだけです。
真似するのは数字やなくて、見方
持ち帰るべきは「商品ごとに利益を分解して見る」という習慣と、「売上やなく手残りで判断する」という順番のほうです。
この2つは、業種が違っても使えます。29%という数字に引っぱられんほうがいい、というのが読んだ感想です。

条件が違う会社の数字をそのまま追いかけると、だいたい無理が出ます

「利益率」より先に見るべきは、キャッシュが返ってくる速さ
この本を読んでから、僕がいちばん意識するようになったのはお金が戻ってくるまでの時間です。
物販は、仕入れて→納品して→売れて→入金される、まで数ヶ月かかります。その間、お金は商品の姿で倉庫に寝てます。
利益率が高くても、回らんかったら意味がない
利益率30%でも年に1回しか回らん商品と、利益率10%でも年に6回回る商品やったら、後者のほうが手元は潤います。
同じ100万円の元手で、前者は年30万円。後者は回すたびに10万円やから、年60万円です。
利益率だけ見てると、この差が見えません。「利益率の高い商品を並べたのに、なんで金が増えへんのやろ」となります。
この本が「利益」と「無収入寿命」をセットで扱ってるのは、そういうことやと理解しました。率と、速さと、残高。3つ見んと足りひんということです。

在庫は「売れてない商品」やなくて「まだ現金に戻ってへんお金」です。そう思うと見方が変わります
広告費を「経費」やなく「商品ごとのコスト」で見る
この本を読んで、うちで一番変わったのは広告費の見方やと思ってます。
広告費は、決算書の上ではまとめて1行の経費です。「今月の広告費は○○円」で終わります。
でも実際は、広告費は商品ごとに全然違います。ほとんど広告を打たんでも売れる商品と、広告を止めた瞬間に売れんくなる商品が、同じ棚に並んでます。
広告を止めたら赤字が消える、ということがある
商品ごとに広告費を紐づけると、「広告費を引いたら赤字やった商品」が出てきます。
会社全体で見てたら、絶対に気づきません。他の商品の利益が埋めてくれてるからです。
この本の5段階に分けて見るというのは、そこを見つけるための手続きです。見つけたら選択肢は3つ。広告を止める/値段を上げる/扱うのをやめる。
どれを選んでも、手残りは増えます。売上は減りますが。
「売上が減る」を受け入れられるかが、いちばんの壁
ここが、この本を実行に移すときの本当の難所です。
赤字商品をやめたら、当然、売上は落ちます。先月1000万円やったのが800万円になる。
数字が落ちるのを見るのは、想像以上にしんどいです。取引先にも、スタッフにも、なんとなく後ろめたい。「縮小してる」ように見えるからです。
でも手元の現金は増えてます。正しいことをやってるのに、気分は悪い。ここを乗り越えられるかどうかが分かれ目やと思ってます。
この本がタイトルに「売上最小化」という強い言葉を置いてるのは、たぶんそのためです。先に覚悟を決めさせにきてる。

売上が減るのを「後退」やなく「整理」と呼べるようになるまでが、しんどい期間です

人を増やす前に、この本を読んでおきたかった
最後に、いちばん個人的な話を書いておきます。
スタッフが増えると、売上を増やさなあかん理由が勝手に生まれます。給料を払わなあかんからです。
そうすると利益率が低い仕事でも、売上のために受けてしまう。忙しくなる。人が足らんくなる。また人を増やす。また売上が要る——この輪に入ると、なかなか抜けられません。
順番が逆になってた
本来は「利益が出てるから人を増やせる」はずです。それがいつのまにか「人がおるから売上が要る」になってました。
この本は、そこを数字で断ち切るための道具をくれます。商品ごとに利益を見て、稼いでへん仕事をやめる。やめる勇気は、数字がないと出ません。
「なんとなく大事な取引先やから」で続けてる仕事ほど、分解してみたら赤字やったということがあります。

感覚でやめる判断はできません。数字があると、やめられます
誰向けの本か
ここだけ確認
逆に会計や簿記をきちんと学びたい人には向きません。経理の教科書やなく、経営者が判断するための見方の本です。
同じ著者の本との関係
木下さんの本は役割が分かれています。この本は「会社の数字の見方」の担当です。
経営や物販をやってる人なら、最初の1冊はこれでいいと思います。会社をやってない人には少し遠いので、その場合は時間術の本からのほうが入りやすいです。

書籍情報
『売上最小化、利益最大化の法則』木下勝寿(ダイヤモンド社)
書籍
まとめ
売上は他人に見せる数字、利益は自分と家族を守る数字です。
物販を6年やってきて、これほど「順番はこっちや」と言い切ってくれる本はなかなかありませんでした。
月商を追いかけて、忙しいのに残らへん。そこにいる人ほど効きます。
同じ著者の本
▶ 『時間最短化、成果最大化の法則』——「ピッパの法則」だけでも元が取れる
▶ 『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』——広告費を「なんとなく」出してる人へ
▶ 『「悩まない人」の考え方』——悩みを「作業」に変換する本

